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浦和地方裁判所 昭和43年(行ウ)2号 判決

原告 山岡静雄

被告 埼玉県知事

訴訟代理人 板井俊雄 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

第一、本案前の判断

自創法三条による買収農地の旧所有者が、当該農地について、都道府県知事がなした同法一六条に基く売渡処分の無効確認を求めることができるためには、売渡処分の無効が確定して、当該農地の所有権が国に存することとなれば、農林大臣が農地法八〇条により旧所有者に当該農地を売り払わねばならない場合であることを要する。単に農地の旧所有者というだけでは、売渡処分の無効を確定しても、当該農地に関する法律上の地位には何の影響もないから売渡処分の無効確認を求める法律上の利益を有しない(行政事件訴訟法九条参照)。

しかして、自創法三条による買収農地については、農地法八〇条の適用があり(自創法三条、四六条、農法地施行法五条、農地法九条、七八条一項参照)、同条は、農林大臣に対しその管理する買収農地について自作農の創設、または土地の農業上の利用の増進の目的に供しないこと(以下「自作農の創設等の目的に供しないこと」という。)を相当とする事実が生じた場合には、これを旧所有者に売り払うべきことを義務づけたもので、その反面、旧所有者は、右の場合においては農林大臣に対し、当該農地の売り払いを求めることができ、農林大臣がこれに応じないときは、民事訴訟手続により農林大臣に対し右義務の履行を求めることができるものと解される(最判昭和四六年一月二〇日判例時報六一七号二一頁参照)。(なお以上の見解に反する被告の本案前の主張は失当である。)

従つて、自創法三条による買収農地の旧所有者が当該農地の売渡処分の無効確認を求めることができるためには、当該農地について自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする事実が存するかどうかにわるから、以下本件につき右事実の有無を検討する。

本件(一)、(二)の土地は、昭和四〇年六月五日埼玉県蕨市大字蕨字穂保作六六六四番地田一反三畝一七歩を分筆したもので分筆前の土地は、原告の所有であつたが、昭和二二年一〇月二日自創法三条により国に買収され、被告埼玉県知事は、昭和二四年三月二日同法一六条により本件売渡処分をなしたことは当事者間に争いがない。

そして、〈証拠省略〉によれば、本件(一)、(二)の土地は、いずれも蕨市土地区画整理事業の蕨市南部第一穂保作地区内にあり(このことは当時者間に争いがない。)、既に仮換地指定済みであつて早晩定地化されることが認められる。

従つて、本件(一)、(二)の土地の現状は、自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする事実が生じている場合に該当するものと言うべきであるから、原告には本件売渡処分の無効確認を求める訴の利益がある。

なお、原告は、本案前の主張として、原告は売渡処分の無効を前提として、直接農林大臣に対し売払いを請求するという現在の法律関係に関する訴を起すことができるから、売渡処分の無効確認を求めることはできない旨主張するが、本件(一)、(二)の土地が現に国の所有するところでない以上(すなわち登記簿上売渡処分を原因として第三者名義になつている。)原告が農林大臣に対し直接売払いを請求し、それが認められたとしても、その判決の効力は、本件(一)、(二)の土地の現在の登記名義人を拘束するものではないから(すなわち登記名義人としては、あくまで売渡処分の有効であることを主張して争える。)。結局原告としては、売渡処分の無効を確定しなければ売払いを受けるという目的を達することはできない。従つて、被告の右主張は失当である。

以上の次第で、被告の本案前の抗弁は、いずれも理由がない。第二、本案についての判断〈省略〉

(裁判官 須賀建次郎 松沢二郎 小田泰機)

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